岡山県内避難者の定住意向の研究
復興庁の避難者数統計
全国の避難者数の推移
- 全国の避難者数は2012年半ばから、毎月4千人程度の割合で減少している。
※但し2011年11月までは福島、宮城県の住宅等の数は把握されていない
復興庁「全国の避難者等の数」より (Data from Reconstruction agency)
各地方の避難者数の推移
- 東北・関東地方をはじめ、中国以外の各地方の避難者数は減少している。
- 中国地方が減少していないのは岡山県が増加傾向であるためである(次図)。
復興庁「全国の避難者等の数」より (Data from Reconstruction agency)
岡山県の避難者数の推移
復興庁「全国の避難者等の数」より (Data from Reconstruction agency)
西日本各府県の避難者数(2014年9月)
- 岡山県の避難者数は西日本各府県の中で最多である。人口規模の割に避難者数が突出している。
復興庁「全国の避難者等の数」より (Data from Reconstruction agency)
西日本各府県の避難者数の推移
- 岡山県の避難者数は、西日本各府県の中でも唯一増加傾向であり、2013年に大阪、京都、兵庫、沖縄を上回るなど、特殊な推移が見られる。
- 県内避難者の実態は十分把握されていないため、地元大学として岡山県・岡山市、民間支援団体、避難者の協力を得て以下のような実態調査を行った。
復興庁「全国の避難者等の数」より (Data from Reconstruction agency)
岡山県内避難者生活実態調査 結果概要
調査の概要
- 岡山県に登録された全避難世帯298世帯に対し、アンケート票を送付した。
- また民間支援団体のメールリストにより調査への協力を依頼した。
- 計315通発送し、そのうち母子避難世帯のみ71世帯から有効回答を得た。
- アンケートの回答は2012年11月1日時点のものである。
避難前の住居
- 避難者の約7割が関東地方に居住していた。
- 半数は持家に居住していた。
避難前の居住地
罹災証明
- 避難者の約7割は罹災証明を持たない。
- 罹災証明を持つ避難者の前住地は、福島県、茨城県、千葉県、栃木県、宮城県であった。
避難前の家族
- 夫婦が58世帯、単身が10世帯であった。調査対象の母子の約8割が父親を前住地に残して避難している。
- 幼児のいる世帯は約76%であった。
避難前に知りたかった情報
- 支援制度、学校・保育情報を知りたかったとの回答が多い。
岡山へ避難した時期
岡山へ避難した理由
- 地震や津波等の自然災害が少なく、原発から離れていて放射能汚染の影響が少ない、東北・関東との交通が便利等の理由が多い。
- 岡山県内の活断層は中国地方の中では最も少ない。吉備高原には畑ケ鳴断層、塩之内断層があるが、断層の長さはいずれも短く、活動度も高くないと推定されている。南海トラフ沿いの地震による津波の到達時間も、岡山県や広島県などの瀬戸内沿岸地域では比較的緩慢であるとされている(下図および文献参照)。
- 避難者は自然災害が少なく、原発から離れていて、地産地消の風土があり、東北、関東方面で暮らす父親や家族が通いやすい地を吟味して岡山を選択している。
<参考>瀬戸内海への津波伝搬モデル
岡山地方気象台、県危機管理課:岡山県地域防災計画資料編「岡山県における地震活動及び津波の記録」(整理番号203)より転載
避難後の住居
- 岡山市が約4割を占める。総社、和気、高梁などの地域には避難者のコミュニティがある。
- 住居種類では、民間の賃貸住宅の割合が約半数と高く、二重生活世帯は特に家賃負担が大きい。
- 8割以上の世帯が県内の避難先に住民票を移しているが、関東からの避難者の多くは被災証明や罹災証明を持たない「自主避難」であり、母子避難であっても「母子世帯」でないため、公営住宅や生活費、医療費の支援は限られる。
避難後の家族
- 20代、30代の母が約6割を占める。7割が幼児を帯同しており、若い母親が幼い子供を連れて避難している。あるいは、幼い子供のいる母親が仕事などの都合でともに避難できない父親を残して、子供の生育環境を優先して避難している。
- 生活費15万円未満が6割を超えている。71世帯のうち24世帯が貯金を生活費に充てていると回答した。
- 家族、住宅、仕事、生活費、社会関係などの生活環境は、避難前後で大きく変化している。家族や友人と離れ、職業やライフプランを変え、生活水準を下げても岡山への避難を選択した行動の動機には強い危機感がある。余儀なく行っている避難に対し、直接の被災がなく自主的と呼ぶ状況には、当事者と第三者との隔絶がある。
参考
本研究は科研費(25870973, 15K11944)を受けた